コラム

コロナ禍オンライン授業における大学生の学習時間の変化―立命館大学生協の学生調査から-

概要

  • 学生の総学習時間(読書・自習時間を含む)は、コロナ禍前とはほぼ変わっていない。
  • 内訳をみると、授業時間が大きく減った一方で課題の時間が大きく増加した。また、自習や読書の自主的な学びの時間が増えている。
  • ただし、学びの時間の「量」だけでなく「質」の変化などにも着目し、オンライン授業の評価をする必要がある。

1.はじめに

 多くの大学で前期末、第二クォーター末を迎える2020年度8月の今日この頃、オンライン授業を通した学生の学びの実態把握にすでに取り組んだ、あるいは現在実施中という大学が多いのではないでしょうか。

この時期、大学教育の質保証や学修成果の可視化などと関連して、あるいはオンライン授業中心となった学生の学習時間や、オンライン授業を通して獲得した知識・能力の実感などをアンケート調査で尋ねる大学もあるかもしれません。

 本稿では、コロナ禍によりオンライン化された授業における学生の学習時間の変化に着目し、一般公開されている学生調査のデータを用いて、学習時間がどのように変化したか検証を試みます。

2.データと方法

 今回検証に使用するのは、「立命館生活共同組合」(以下、立命館生協と略記)が2020年5月14日~5月20日に実施した学生生活アンケート調査の結果報告集計値です。1)本コラムでの引用について、事前に立命館生協の担当者に承諾をいただきました。この場を借りて、深くお礼申し上げます。
https://www.ritsco-op.jp/pickup/2020/05/covid-19.html (2020年8月5日アクセス)

 なお、立命館大学の学生数32,243人(2020年5月1日時点)に対して回答者は3キャンパスで計1,546人であり、母集団に比してサンプルサイズは小さい点には留意が必要です。この点は課題ですが、サンプルサイズが1,000を超えている点はポジティブに評価できること、またちょうど本稿の関心とマッチする調査項目があったため、こちらの調査結果を使用することにしました。

 本アンケート調査の興味深い点は、学生の時間の使い方を丁寧に細かく分けて聞いている点です。コロナ禍以前の通常期と現在(2020年5月)の時間の使い方を、「大学の授業」・「授業の課題」・「自主学習・資格の学習」・「読書」・「SNS」・「ゲーム」・「TV・You Tubeなどを見る」・「アルバイト」・「課外活動」の9項目に分けてそれぞれ尋ねています。つまり、beforeコロナとwithコロナの学生の時間の使い方の比較ができるのです。

 リンク先のグラフを見てわかる通り、「大学の授業」の”5時間以上”、”5時間以内”が通常期に比べ現在(2020年5月)は大きく減っています。他方、「授業の課題」の”5時間以上”、”5時間以内”は大きく増加しています。

 細かく見ていくと話題にきりがないので、本稿では、上記2つに「自主学習・資格の学習」と「読書」を加えた4項目を学生の学びに特に関係する項目とみなし、これら4つの時間の使い方の変化に焦点を当てたいと思います。個票データはないため、方法は非常に「粗い」点にご留意ください。階級値(分)とその割合を用いて加重平均(時間)を算出し、それを比較します。具体的には、前の区分との時間差も考慮しながら、各階級値を次のように設定しました。区分”0分”=0(分)、”30分以内”=15、”1時間以内”=45、”2時間以内”=90、”5時間以内”=210、”5時間以上”=300です。次に、各階級値に通常期と現在の各割合を掛け合わせて合算し、通常期と現在の加重平均学習時間を算出します。たとえば、通常期の授業の課題の時間であれば、0(分)×0.19(19%)+15×0.065+45×0.20+90×0.335+210×0.185+300×0.025≒86.5(分)という計算です。なお、割合は目測です。元のグラフに等間隔の定規をあて、0.5%刻みでおおよその割合を推察しました。これらの計算過程や読み取り方は、図1を参考にしてください2)公表グラフでは推察できない一部の割合は、立命館生協に問合せして確認しました。

図 1 階級値の割当・割合の読み取り・加重平均時間算出の参考

3.結果と解釈

 加重平均(時間)を算出した結果、およびそこから求めた通常期と現在(2020年5月)の差は、表1のとおりです。ここでは差に着目します。まず、「大学の授業」の時間は、1日当り約50分の減少です。他方、「授業の課題」は1日当り45.8分増加しています。授業の課題が多すぎるという学生の声は2020年4月初旬から多数見聞きしており、既に皆さんがお持ちの肌感覚通りの結果といえます。そして、「自主学習・資格の学習」は1日当り6.8分の増加、「読書」は8.1分の増加でした。

 続いてこれらの学びの時間を、差の累積で見ていきましょう。まず、「大学の授業」と「授業の課題」の時間の差の累積は、1日当り4.3分の減少でした。続いて、その2つに「自主学習・資格の学習」の差を含めると、1日当り2.5分の増加、さらに「読書」を含めると1日当り10.6分の増加という結果でした。

 あくまで今回のサンプルと算出方法からの推察ですが、授業に関する学習時間は「微減」、あるいは「ほぼ変わらない」といえます。さらに、自習を含めた場合は「微増」あるいは「ほぼ変わらない」ですが、読書まで含めた場合、学びの時間は「微増」といえます。学生の学習時間を読書や自習の時間も含めて考えれば、学びの時間はほぼ変わっていないものと推察されます。さらに、トータルの学習時間は同じであっても、その内訳を見ると自主的な学びの時間が増えているものと考えられます。この結果を見て思い出したのは「学び習慣仮説」です。高等教育研究における大学教育の効果を検証する一つの分析の枠組みで、大学在学中の読書習慣の蓄積および卒後の継続が、卒業時および卒後の知識・能力や所得に繋がっているとする仮説です。仮に、通常期より自主学習や読書に時間が充てられ、これらの習慣づけが通常期よりなされやすいのであれば、この点はオンライン授業運営下のポジティブな点と受け止めても良いかもしれません。

表 1 加重平均時間算出結果/通常期と現在の学びの時間の差

※差は「通常期」と「現在」の加重平均時間の差。

4.まとめと課題

 本稿では立命館生協のアンケート調査結果から、学生の学びの「時間」の通常期と現在(2020年5月)の変化について検証を試みました。その結果、学びの時間はトータルではあまり変わっていない点と、内訳を見れば自習や読書などの自主的な学びの時間が増えている点、この2点が筆者の分析から推察されました。2020年4月から7月に実施されたオンライン授業に関しては、賛否様々な意見が各大学で交わされているところだと思いますが、その議論の参考になれば幸いです。

 ただし、今回の分析はデータと方法に限界があります。一大学の、また限られたサンプルの集計結果から、階級値と割合を用いて粗々の推計をしています。今後、同様の調査項目で個票データを用いて検証した結果が蓄積していけば、今回の結果がどれほど一般的傾向を示すのか、はっきりしてくると思います。

 そして、学びの時間に着目した今回の分析結果から見えることの限界についても2点触れたいと思います。

 1点目は、学びを時間という「量」で見ることの限界です。項目別に見た時間の「量」は同じでも、「質」は異なることがあると思います。たとえば、クラスメイトと同じ場で議論しながら課題をこなすことと、自宅で黙々と1人で課題をこなすことの違いなどです。前者、後者どちらが良いかはわかりませんが、このような「質」の違いの検討も、今後のオンライン学習環境支援や、オンラインとオンキャンパスでの実施を掛け合わせたハイブリッド型の授業運営を考えるうえで重要になるかもしれません。

 2点目は、学びの時間とは別の、正課外活動の時間の減少およびその影響は全く見ることができていない点です。正課外活動に関する項目は、各大学の公式調査よりも先に、「全国大学生協共済生活協同組合連合会」、「東京大学消費生活協同組合」などが公表している緊急学生調査の結果が参考になります。これらの結果からは、部活やサークル等の正課外活動時間の大幅な減少、勧誘を含めた交流機会の減少が読み取れます。正課外活動で得られる知識・能力も少なくないため、これも含めた大学生活または大学教育の効果が期待よりも低くなってしまうことが心配です。また、過去には存在していたはずの上級生と下級生との間の情報伝達機会も限られますので、長い目で見れば、各種正課外活動の継続性も心配されます。たとえば、近年いくつかの大学が力を入れていたピアサポート活動は、学生間で自ずと育まれていた事業継承の文化に大学が助けられていた面もあると思いますので、特に心配です。

 オンライン授業運営等の効果や質保証も気になるところですが、それと同時に、オンキャンパスで得られる大学教育や大学生活の価値も検証し、これからの大学教育や経営の判断に活かす必要があるでしょう。今後の調査や分析の蓄積に期待したいと思います。

(法政大学  井芹俊太郎)

References   [ + ]

1. 本コラムでの引用について、事前に立命館生協の担当者に承諾をいただきました。この場を借りて、深くお礼申し上げます。
2. 公表グラフでは推察できない一部の割合は、立命館生協に問合せして確認しました。