コラム

学校基本調査と大学ポートレートからCommon Data Setの意義を考える

1. 基幹統計としての学校基本調査と大学情報公表の現状

基幹統計としての学校基本調査

学校関係者であれば、学校基本調査の名称は必ず耳にしたことがあると思います。この調査は統計法に基づく日本国内に置かれる全ての学校を対象とした「基幹統計調査」です。基幹統計の一覧は総務省Webサイトから確認できます。

このうち、「学校基本調査」の集計データはe-statから取得できますが、個票データは閲覧できません。また、総務省による「公的統計調査の調査票情報等の学術研究等への活用」も制度化されていますが、「調査対象の秘密の保護を図った上で、集計していない個票形式のデータ(調査票情報及び匿名データ。)を提供するサービス」であり、公益性のある学術研究に活用目的が限定されているため、簡単に利用できるものではないと言えます。

しかし、大学ポートレートの整備に伴い、国公立大学・短期大学については、(独)大学改革支援・学位授与機構の「大学基本情報」にて個別大学名の入った集計データが公表され、一部ですが利用しやすいデータも公表されるようになりました。ここに私立大学も加わると、学校基本調査対象の高等教育機関を網羅した有用なデータになります。

大学情報公表の現状

大学においては、学校教育法施行規則等の一部を改正する省令(平成22年文部科学省令第15号)により、入学者数や卒業者数、就職者数等の教育・研究情報をインターネット等で情報公表することが義務付けられました。

政策面の対応は進んでいますが、各大学のWebサイト上から個別データを収集することは非常に手間がかかり、我が国の高等教育全体を俯瞰できる大学情報の公表と活用は途上の段階にあると言えます。

2.  Common Data Setとは何か

米国ではCommon Data Set Initiative(以下、「CDSイニシアチブ」といいます。)という団体が、高等教育コミュニティと出版社の間を繋ぐ役割を担っています。日本にはこのような役割を担う組織が無いため、出版社は各大学に個別の質問票で調査依頼を行っており、大学側の負担となっている面があります。

当プロジェクトでは日本版Common Data Set(以下、「J-CDS」といいます。)の開発に向けた活動を行っていますが、米国のCDSは「高等教育機関や出版社などの間のデータ標準化を進めるものであり,学生へのデータ提供の質と正確さを高めることとともにデータ提供側の負担を軽減することを目的」としています。1)本田寛輔,井田正明「高等教育機関の戦略計画と大学情報―米国ニューヨーク州の事例―」大学評価・学位研究第6号 2007年12月(アクセス日:2019/01/21)
https://niad.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=89&item_no=1&page_id=13&block_id=17

CDSを政策的に実質化させるためには関係機関の役割の明確化と、これからのあるべき姿を展望する必要があります。この点は本プロジェクトメンバーが大学評価コンソーシアムで事例報告を行っていますので、是非内容をご覧ください。2)荒木俊博、藤原僚平、上畠洋佑「日本版コモン・データ・セット(CDS)実現に向けた予備的研究-大学を対象にした調査の質問項目の分析を通して-」大学評価とIR第9号、2018年12月14日(アクセス日:2019/01/21)
http://iir.ibaraki.ac.jp/jcache/lib/docu/009_h2908/009-h3012-04_araki_et_al.pdf

3.  大学ポートレートとCommon Data Setを組み合わせることで大学教育の質保証に繋げる

米国の事例から日本でのCDS活用を考える

米国のCDSについての先行研究によれば、「CDSに関する活動は,CDSイニシアチブと呼ばれ,College Board,Peterson’s,U.S. News & WorldReportの3団体(CDSチーム)を中心に行われている。」とあります。3)山崎慎一「Common Data Setに見るアメリカの大学情報の質保証」情報管理51巻3号p. 207-219、2008年(アクセス日:2019/01/21)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/51/3/51_3_207/_article/-char/ja/

日本の場合、大学情報の公表について検討する場として、大学ポートレート運営会議及び大学ポートレートステークホルダー・ボードがあります。J-CDSの検討と実質化にあたり、本プロジェクトでの検討結果及び成果を大学ポートレート運営会議も巻き込んで継続的に検討する場を設けることが必要と考えます。

ここでは学校基本調査と大学ポートレートの関係を整理し、J-CDSの意義を考えるため、次の2つをポイントとして挙げたいと思います。

学校基本調査については、私立大学も包括した統合データを(独)大学改革支援・学位授与機構の大学基本情報に搭載することが望ましい。将来的には日本私立学校振興・共済事業団が運営する「大学ポートレート(私学版)」との統合も含めて、より大学情報が閲覧しやすい形態への移行が不可欠である。

米国のCDSイニシアチブを参考に、高等教育コミュニティと出版社を繋ぐ役割として大学ポートレート運営会議又は大学ポートレートステークホルダー・ボードを活用し、大学における情報公表のあるべき姿を描くことが必要である。米国のCDSイニシアチブと比較すると出版社の参画者数が少ないため、さらに関係者の対象を拡大すべきではないか。

大学ポートレート運営会議を巻き込む

米国での取り組みを参考にすると、「CDSは,教育関連団体から構成される委員会と,大学,高校の代表による定期的なレビューを受けて」います。独立行政法人大学改革支援・学位授与機構大学ポートレート運営会議規則及び独立行政法人大学改革支援・学位授与機構大学ポートレート運営会議要項を見ますと、大学ポートレート運営会議の下に「大学ポートレート運営会議に係る実務者協議会」又は専門的事項を調査する「専門委員会」を置くことができます。

私案ですが、まず専門委員会に本プロジェクトの研究成果を示してJ-CDSのあり方についての検討を行います。委員会には当プロジェクトからメンバーが参画し、試案としての検討版を取りまとめることが考えられます。

その後のレビュー・改訂については、実務者協議会での議論を行い、高等学校・マスメディア関係者が参画する大学ポートレートステークホルダー・ボードでの意見聴取を経て、大学ポートレート運営会議として承認するプロセスが考えられます。

現場からの政策提言機能としてのJ-CDSプロジェクト

J-CDSプロジェクトでは、CDSのメリットとして次の2点を挙げています。

  • 大学内外のステークホルダーが活用しやすいデータを作成し公表すること
  • CDSは共通のデータ・フォーマットであるため、大学に多数寄せられる外部からの調査の回答に活用が期待できること

今まで日本に無かったCDSを定義し、J-CDSを現場から発信していくことで、「日本における大学情報の適切な取扱いを現場から推進する役割」を本プロジェクトは内包しているのだろうと思います。

前項で私案として述べた大学ポートレート運営会議を巻き込んだ大学情報の実質化をどのように果たすのか、今後のプロジェクト進捗が楽しみです。

(東北学院大学 長山琢磨)

References   [ + ]

1. 本田寛輔,井田正明「高等教育機関の戦略計画と大学情報―米国ニューヨーク州の事例―」大学評価・学位研究第6号 2007年12月(アクセス日:2019/01/21)
https://niad.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=89&item_no=1&page_id=13&block_id=17
2. 荒木俊博、藤原僚平、上畠洋佑「日本版コモン・データ・セット(CDS)実現に向けた予備的研究-大学を対象にした調査の質問項目の分析を通して-」大学評価とIR第9号、2018年12月14日(アクセス日:2019/01/21)
http://iir.ibaraki.ac.jp/jcache/lib/docu/009_h2908/009-h3012-04_araki_et_al.pdf
3. 山崎慎一「Common Data Setに見るアメリカの大学情報の質保証」情報管理51巻3号p. 207-219、2008年(アクセス日:2019/01/21)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/51/3/51_3_207/_article/-char/ja/