コラム

人は知らぬ間に個人の「情報」を発信している

 私は受付業務が好きです。大学のFD・SDに関するイベントで講師を依頼された時も、時間に余裕のあるときはこっそり受付の様子を遠くから見ています。時には手伝いをかってでます。口角を上げて、笑顔がぎこちなくならないように目と口を連携させてニッコリと笑顔を作る「こんにちは。お名前をお伺いします。」

 トイレや食事の時のように、日常に近ければ近いほど人間の素がでるものです。主催者側の受付担当者の顔つき、仕事ぶり、感情の動き。参加者の受付への態度、言葉使い、受け答えの会話からわかる理解力とコミュニケーション力の高低。あくまでも個人的経験からですが、この業界の笑顔の数の乏しさは憂慮するところがあります。

 毎年開かれていたあるIR(Institutional Research)に関するイベントがあります。全国から集まった十数名の有志の教職員が、無給でイベントをもり立てようと頑張っていました。私もその一人です。

 私立大学等改革総合支援事業で、IR担当者の研修参加の有無がポイント化されたのを境に、受付の雰囲気が変わりました。一言でいうと「お客様」主義の人が増えました。受付での「こんにちは」の返答も減りました。笑顔も減りました。これまで実務担当者が現場で困っていることを、年に一度集まって有機的に共有し合うような雰囲気がなくなりました。受付へのクレームや無理な要望も出てくるようになりました。

 IR(Institutional Research)は統計学やデータサイエンスなどの「理系」「ビッグデータ」「科学的経営」「合理的判断」などのイメージが強かったのですが、ここ十年のIR経験者の体験談や論考から、組織内のコミュニケーションを潤滑にすることが一番大事であると主張されています。筆者もこの考えに強く同意する立場です。受付をしながら時代の変化を感じるとともに、「お客様」なIR担当者って、組織でどんな仕事しているんだろうという素朴な疑問が湧いています。未だにわかりません。どういうふうに仕事してるんですか?

 このような問題意識もあって、クリスティーン・ポラス著「Think CIVILITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である」を読みました。(https://str.toyokeizai.net/books/9784492046494/)この本の内容を端的にまとめると、組織に「礼節」がある人が増えること、「無礼」な人をへらすことが組織の経営にとっても、職場環境の整備としても大事であるということでした。「無礼」な人は、同僚の寿命を縮めたり、病気のリスクを高めたり、集中力を奪い、パフォーマンスを低下させるそうです。実験などの実証的な研究成果を紹介しながら論じているので、コラムニストやビジネスマン、コンサルが書くものよりは信頼できるかもしれません。

 この本では、「礼節」には3つの原則があることが書かれています。「笑顔」「相手の尊重」「傾聴」。日本には慇懃無礼という言葉もありますね。これには、おそらく「相手の尊重」が欠けているのでしょう。

 大学の情報は、コモン・データセットだけでなく、「exコモン・データセット」があるものと考えます。つまり、共通性を持たないけれど、大学独自の情報として、毒にも薬にもなる情報です。大学内はなんとなくほんわかして、なあなあでやっていける世界ですが、社会の目は結構厳しいです。加えて大学のことはまったく理解されていません。だからこそ、要求は過大(大学人にとっては)で無理難題なのだと思います。

 最近高校の先生と入試広報以外の場でお話する機会がありました。大学に一番近しいであろう高校の先生でも、我々が当たり前だと感じていること、知っていることを知らないのです。こういった経験を踏まえて、普段大学人同士でしか接していない点をこれから変えていく必要があると思いました。閉鎖性と同質性をいかに低くしていくことが課題なのだと思います。

 今年後半の緩やかな目標は、私個人が「exコモン・データセット」の良きくすり売り(セールスマン)として、大学外に積極的に出ていくことです。みなさんもぜひ、どんどん大学の外に出ていろんな職種の人と交流してみてください。

(新潟大学 上畠洋佑)