コラム

調査負担の誘因と貢献

各大学では外部機関から調査を依頼され、回答をするまでに、調査の受付から各部署への依頼、回答の集約等に多くの時間や人的資源が割かれているのではないでしょうか。学内で調査を依頼する部署と依頼される部署では、どのように感じているのでしょうか。

例えばこのようなシチュエーションが想定されます。

調査を依頼する部署:調査依頼が来ているから回答をしてほしい。
調査を依頼される部署:仕事が忙しいので負担である。

 

各大学において、調査に対して回答するか否かその基準は異なることでしょう。

しかし、調査に対して協力をするか否か。決めるのは人であり組織です。例えばA部長の時は回答をしてくれたとしても、後任のB部長は果たして応じてくれるでしょうか。

もちろん学校基本調査など法令に基づく統計や補助金に関わる調査であれば、業務として間違いのないデータを取りまとめ部署に提出するでしょう。

しかしながら、人はその業務が義務的に明示されているのではなく、回答するかしないか自らが判断できる立場にある場合はどうでしょうか。自分のいる部署や自身に対してメリットを感じず業務を増やす意思決定は難しいのではないかと考えます。

ここで、アメリカの経営学者であるBarnard(1938)による「組織均衡論」に注目してみます。

組織1)組織についてBarnard(1938)は次のように述べています。「協働体系のなかの1つの体系であり、『2人以上の人々の協働』という言葉のうちに含まれている体系を『組織』(Barnard,1938:p.67)」とし、「意識的に調整された人間の活動や諸力の一体系である。(Barnard,1938:p.84)」と定義しています。
また、組織の要素を①伝達(コミュニケーション)、②貢献意欲、③共通目的の3つ示しました。これら3つの要素は相互依存関係にあると述べ、「組織が存在するためには、有効性または能率のいずれかが必要であり、組織の寿命が長くなればなるほど双方がいっそう必要となる。(Barnard,1938:p.85)」と指摘しています。
は(構成員がそれぞれの)共通目的を果たすために協働し、貢献意欲を見出し、コミュニケーションを通して共有しています。組織の能率性を高めるには、「個人ではやれないことを協働ならばやれる場合にのみ協働の理由がある(Barnard,1938:p.24)」のであり、組織の側から、何らかの誘因(個人の動機を満足させる要因)を提供することで、貢献意欲を引き出す必要があります。

つまり、貢献は誘因により引き出され、「組織の能率とは、そのシステムの均衡を維持するに足るだけの有効な誘因を提供する能力である(Barnard,1938:p.97)」ということになるのです。

そして、伝達(コミュニケーション)、貢献意欲、共有目的の3要素が成立する協働意欲の確保のためには、構成員に対し、貢献をもたらす誘因が等しい、もしくは、大きく供与にすることによって組織が均衡(誘因≧貢献)すると説明しています。

ここで先のB部長の立場にもどって考えてみます。この調査に回答することは組織にとってメリットが生じるだろうか。また、調査の回答に時間と労力をかけたにも関わらず、回答者側が意図しない情報や、ランキングに繋がりうる大学間比較がされてしまっては次の機会に、協力するメリットを感じられないなあ、とB部長は思うのではないでしょうか。

大学は、補助金や税制優遇といった公的な助成を受けています。そこで行われている教育・研究を中心とした営みには当然ながら説明責任が伴います。

しかし、社会的な説明責任の名目で任意に調査を受けることは、人件費など様々なコストが必要となることを軽視することはできないのではないでしょうか。

大学側も調査を行う側も、お互いがメリットを感じつつ、誰に、何を、何のために伝えたいのか考える必要があると思います。

(参考文献)

Barnard,C.I(1938)“The Functions of the Executive” Harvard University Press
(山本安次郎ほか(訳)『経営者の役割』ダイヤモンド社)

(東北学院大学 齋藤 渉)

References   [ + ]

1. 組織についてBarnard(1938)は次のように述べています。「協働体系のなかの1つの体系であり、『2人以上の人々の協働』という言葉のうちに含まれている体系を『組織』(Barnard,1938:p.67)」とし、「意識的に調整された人間の活動や諸力の一体系である。(Barnard,1938:p.84)」と定義しています。
また、組織の要素を①伝達(コミュニケーション)、②貢献意欲、③共通目的の3つ示しました。これら3つの要素は相互依存関係にあると述べ、「組織が存在するためには、有効性または能率のいずれかが必要であり、組織の寿命が長くなればなるほど双方がいっそう必要となる。(Barnard,1938:p.85)」と指摘しています。