コラム

新型コロナウイルスによる学費返還問題に関する一考察:学校法人会計基準の視点から

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、授業料や施設維持費等、学費の返還を求める声が散見されるようになりました。その中で、早稲田大学は2020年5月5日に「早稲田大学の学費に関する考え方について」を発表しました。

要約すれば、学費はそれぞれの学位取得にかかる総額を年数で等分していること、施設維持等にかかる費用は納付した当該年度のみによらず、教育研究活動を永続的に維持していくために平準化して納めていくものであることが示されています。

このような事態によって、あらためて私立大学を設置する学校法人が公開している計算書類への関心が高まっているのではないでしょうか。また、同時に学校法人が計算書類の作成根拠としている学校法人会計基準の抱えている課題も浮き彫りにしているとも考えられます。

その課題とは、学校法人の財政を対外的に説明する仕組みが不十分であることだと筆者は考えます。学校法人会計基準は「私立学校の財務基盤の安定に資するものとして、また補助金配分の基礎となるものとして」(文部科学省2013)の性質に重きが置かれています。

なお、2013年4月に公布された「学校法人会計基準の一部改正について」では、改正の趣旨として、社会にわかりやすく説明することがあげられていますが、理解しにくいと批判されてきた基本金制度は残されたままとなっています。

基本金とは、学校法人会計基準第29条において、「学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その事業活動収入のうちから組み入れた金額」であると示されています。日本私立大学連盟経営委員会財務会計分科会(2007,p.2)は「基本金組入額を前取りした後に、消費収入の額が決定される仕組みになっており、社会一般の目から見て、理解しにくい」と指摘しています。

とりわけ基本金の中でも、奨学金等の原資である基金として積み立てられる第3号基本金は、運用によって生じる果実を学生が直接、享受するものであり、どのような顛末によって運用されているのか、学校法人は詳細に社会に向けて公表していかなければならないものであると考えます。

したがって、筆者は学校法人会計基準の外部報告の視点を強化していくべきと考えます。外部報告の視点を強化することとは、学校法人のステークホルダーに対して、財務状況を明瞭かつ丁寧に説明していくことを意味します。現行の学校法人会計基準は、学校法人固有の仕組みとなっているため、学校法人の関係者以外の方が理解するにはある程度の知識が必要となります。

学校法人会計基準は、経常費補助金算定の根拠および経理の適正化のために1971年に制定されました。国が私立大学に対して経常費補助金を支給する上で、統一的な会計基準が必要とされたためです。当時の学校法人は「収支会計方式に統一性があったわけでなく、その様式、勘定体系、取引の認識基準などがまちまちであった」(谷田部1973,p.43)ようです。

そして、経常費補助金が支給されるようになった背景には、1960年代に大学の学費値上げに反対する学生騒動が全国的に波及したことにあります。文部省大臣官房企画室長であった犬丸直は当時の学生騒動について、「私学問題の社会的重要性をあらためて一般に認識させ、私学振興方策の改善の必要を強く世間に印象づけたことは事実である」(犬丸1967,p.2)と述べています。

学費問題が社会一般に認識されたという点では、新型コロナウイルスによって声があがった学費返還問題に通ずるところがあるのではないでしょうか。

日本私立学校振興・共済事業団(2019,p.520)によれば、2018年度における医歯薬計含む592校合計の学校法人(大学部門)の収入構成は、学生生徒等納付金が77.7%となっており、続いて経常費等補助金が9.0%となっています。補助金という税金が投じられる以上、その算定根拠を社会に向けて明確に示すことは蔑ろにすべきではありません。それに加え、収入のほとんどが学生生徒等納付金で占められていることを踏まえ、学校法人会計基準はより一層、対外的な説明を十分に果たしうる会計基準へと変貌していく必要があると筆者は考えます。

(高千穂大学 近藤直幸)

参考文献

・犬丸直(1967):「私立学校振興方策の改善」,『時の法令』第615 巻,1967年8 月,pp.1-6。
・日本私立学校振興・共済事業団(2019):『令和元年度版 今日の私学財政 大学・短期大学編』,学校経理研究会,2019年12月。
・日本私立大学連盟経営委員会財務会計分科会(2007):「新たな学校法人会計基準の確立を目指して ―外部報告の充実のために―」,2007 年6 月。
・文部科学省(2013):「学校法人会計基準の一部改正について(通知)」,2013 年。
・谷田部栄広(1973):『業種別会計実務 学校法人』,第一法規,1973 年。