コラム

高学歴社会における社会的ジレンマとしての大学側の調査負担

今日、大学進学に関する情報は、さまざまな媒体で提供されています。例えば、スタディサプリ(リクルートホールディングス)やマナビジョン(ベネッセコーポレーション)では、インターネット上で大学情報を公開しています。また、いくつかのマスメディアでは、就職状況などをはじめとした、独自の大学ランキングを公表しています。

では、こうした情報はどの程度利用されているのでしょうか?

そこで今回は、書誌媒体に限りですが、利用状況を確認してみたいと思います。参照するのは、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターのSSJDA(Social Science Japan Data Archive)に寄託されているデータセットです。

SSJDAには、これまで実施された様々な社会調査データが寄託されていて、学術目的に限り、これらデータの二次利用が可能です(URL: https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/ssjda/about/)。

また、一部のデータについては、オンラインでの分析も可能です。今回は、同研究センターのリモート集計システムであるNesstar Webviewを使用して、ベネッセ教育総合研究所が経済産業省から委託を受けて2005年に実施した「進路選択に関するふりかえり調査」の結果を確認してみたいと思います。

こちらの調査では、全国の4年制大学に通う文系・理系の大学生男女6,463名に対して、大学に関する情報源をどれだけ参考にしたかをたずねています。

このうち、進学に関する本や雑誌について、「とても参考にした」と回答したのは32.8%(N=2120)、「やや参考にした」と回答したのは42.2%(N=2728)にのぼります。一方で、「あまり参考にしなかった」と回答したのは14.9%(N=961)、「ぜんぜん参考にしなかった」と回答したのは9.7%(N=629)でした。

これら結果は、今回調査対象となった大学進学者の約7割が、書誌媒体から得た大学に関する情報を参考にしていたことを示しています。

この調査結果を見て、みなさんは大学に関する情報誌が活用されていると考えるでしょうか?それとも、活用されていないと考えるでしょうか?

今回の調査データは、ベネッセコーポレーションの保有するパネルから調査対象者を抽出しているという点で、サンプルにはある種の偏りが発生している可能性を否定することはできないでしょう。

しかし、そうしたバイアスを考慮に入れたとしても、大学に関する情報書誌媒体を参照する高校生は一定数存在していると考えてよいのかもしれません。

このように、大学情報誌は学生に対して進学に関する情報提供の機能を担っていますが、それと同時に、各大学から情報を収集するうえでの調査負担を生み出しうるという側面も有しています。

より広い視点から語るならば、大学進学率の上昇にみる戦後日本社会の高学歴化の過程において、高校から大学への進学はライフチャンスにおいて重要な意味を持つようになり、進学情報誌の需要とその供給のため生じる調査負担とが併存するという構造をみてとることもできるでしょう。

この意味で、進学情報誌の生み出す社会的利益と調査負担の関係は、高学歴社会における1つの社会的ジレンマとして議論されていく必要があるでしょう。

[付記]
本分析の結果は、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターNesstar Webviewのオンライン分析を利用し、同データアーカイブが所蔵する〔「進路選択に関するふりかえり調査」(ベネッセコーポレーション)〕の個票データを二次分析したものである。

(日本学術振興会 特別研究員 渡辺健太郎)