コラム

大学設置基準から考える大学情報の共通性と日本版CDSの意義

大学設置基準とは

大学関係者ならば必ず知っている言葉です。法令 としては文部科学大臣が定める省令に当たります。ちなみに「法令」とは、法律、政令、省令、告示及び通知等から構成されます。全体構造は、「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)(平成26年2月12日 大学分科会)P.6の図1「大学にガバナンスに関する教育・経営に係る法令の関係」を参照すると理解しやすいです。1)「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)(平成26年2月12日 大学分科会) https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1344348.htm(アクセス日:2020/03/28)

当然、大学設置が認可されるためには、この基準に適合していることが必要です。大学設置基準第1条では以下のように定められています。

(趣旨)

第1条 大学(短期大学を除く。以下同じ。)は、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)その他の法令の規定によるほか、この省令の定めるところにより設置するものとする。

2 この省令で定める設置基準は、大学を設置するのに必要な最低の基準とする。

3 大学は、この省令で定める設置基準より低下した状態にならないようにすることはもとより、その水準の向上を図ることに努めなければならない。

大学設置基準より

「大学を設置するのに必要な最低の基準」なので、日本国内の大学にとって「共通の基準」です。教員の数、校地・校舎の面積、附属施設などの基準が定められている訳ですが、こうした基準があるにも関わらず、大学情報公開を巡る議論は定まらないままです。それは何故なのでしょうか。

質保証システムから見た「共通性」

日本の大学は国による「設置認可」、認証評価機関による「認証評価」大学が自らその質の向上と点検を行う「内部質保証」という3本柱で教育の「質保証」がなされています。大学設置基準という視点で見ると、質保証システムの3本柱それぞれで大学設置基準を充足できているかが国・認証評価機関・大学自らによって確認・評価されています。

しかしながら、現行の「質保証」では各大学が大学設置基準を充足できているかを自己評価する仕組みのため、共通基準での大学間比較という視点が日本の質保証システムにはその機能が想定されていません。この点を補強するべく立ち上げられた大学ポートレートですが、国公立は大学改革支援・学位授与機構が、私立は日本私立学校振興・共済事業団で別々のシステム構築・運用しており、設置形態で縦割り型となっている点が壁として高くそびえ立っています。2)堀野高等教育政策室長、金子元久委員の発言部分にこのことに関する記述があります。中央教育審議会大学分科会制度・教育改革ワーキンググループ(第9回)議事録(平成30年1月31日(水曜日)10時~12時)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/043/siryo/1403219.htm(アクセス日:2020/03/26)

コモン・データセットの役割

2020年3月18日、19日の2日間、オンライン開催で行われた「大学教育研究フォーラム」にて本研究グループでは「日本版コモン・データセットのデータ項目検討の試み―日本の大学の情報公開とアメリカのコモン・データセットの比較を通して―」というポスター発表を行いました。筆者もアメリカCDSの翻訳を行う形で本研究発表にコミットしました。

この発表では日本の情報公開と米国のCommon Data Set(CDS)の比較を通じ、日本版コモン・データセット策定にあたってのデータ定義の検討が必要と提言しました。この発表の中では、アメリカは、Common Data Set Definitions(CDS上のデータ定義)が細かく記載されていることがCDSの特徴の一つであることに触れています。

データ定義は重要なことで、この定義に従って情報を発信する側、受信する側にデータを「解釈」する上での共通理解が生まれます。よって、定義が定まらなければ完全な形での「共通性」には繋がらないと考えます。

先に大学設置基準について触れましたが、実は設置基準の解釈について、統一的見解は示されていません。例えば大学設置基準に定める必要専任教員数は別表に記載されていますが、学際領域の場合の必要専任教員の算出方法についての具体的な説明はどこにも表示されていません。このようなケースで法令解釈に関して質問がある場合、文部科学省の所管課に照会することとされています。3)「Q10.設置認可等は予定しておりませんが,大学設置基準等の法令の一般的解釈について事務相談の場で質問することはできますか。」https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/1368480.htm(アクセス日:2020/03/26)

私見ですが、法令の解釈は本来、国が責任をもって説明すべきだと考えます。なぜなら、監督官庁である文部科学省が示した法令の解釈を誰でも確認可能にすることが大学の自律性を高めることに繋がると考えるからです。大学の自律性を高めること、他大学と比較を通じて大学が自ら責任をもって教育を継続的に改善し、質保証することに繋がると考えます。

コモン・データセットの役割

CDSのデータ定義はカレッジボード等の大学団体が主導してマスメディア等と意見交換し、大学の情報公開を自ら定義している点に特色があります。米国と日本では高等教育制度が異なるので一概にそのまま導入できない点もありますが、日本の大学が抱えている自らを省みず、自分たちに都合のよいように欧米事例を解釈しがちな偏った認識(バイアス)を直視するための「鏡」の役割をアメリカCDSが果たすと考えます4)“大切なのはバイアスを直視することであり、そうしたバイアスが生じる自分たちの問題関心の傾向を自覚すること”羽田貴史「正しい高等教育情報―鏡に映る日本の高等教育」アルカディア学報No.229, https://www.shidaikyo.or.jp/riihe/research/229.html(アクセス日:2020/03/26)5)文部科学教育通信に掲載した拙稿もあわせて御参照ください。「カナダ・オンタリオ州のCUDO」https://researchmap.jp/t-nagayama/misc/20545898(アクセス日:2020/03/26)

本プロジェクトが志向する「現場からの政策提言機能」を踏まえて、大学教育の現場で働くメンバーで構成される本研究グループだからこそ行える日本版CDSの検討に意義がありますし、具体的な提言に繋げていきたいと考えています。

(学校法人東北学院 長山琢磨)



References   [ + ]

1. 「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)(平成26年2月12日 大学分科会) https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1344348.htm(アクセス日:2020/03/28)
2. 堀野高等教育政策室長、金子元久委員の発言部分にこのことに関する記述があります。中央教育審議会大学分科会制度・教育改革ワーキンググループ(第9回)議事録(平成30年1月31日(水曜日)10時~12時)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/043/siryo/1403219.htm(アクセス日:2020/03/26)
3. 「Q10.設置認可等は予定しておりませんが,大学設置基準等の法令の一般的解釈について事務相談の場で質問することはできますか。」https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/1368480.htm(アクセス日:2020/03/26)
4. “大切なのはバイアスを直視することであり、そうしたバイアスが生じる自分たちの問題関心の傾向を自覚すること”羽田貴史「正しい高等教育情報―鏡に映る日本の高等教育」アルカディア学報No.229, https://www.shidaikyo.or.jp/riihe/research/229.html(アクセス日:2020/03/26)
5. 文部科学教育通信に掲載した拙稿もあわせて御参照ください。「カナダ・オンタリオ州のCUDO」https://researchmap.jp/t-nagayama/misc/20545898(アクセス日:2020/03/26)